ベータ角の計算方法を紹介します。
1. ベータ角とは
衛星の軌道面と太陽との角度のことです。軌道面よりも地球の北側に太陽がある場合はベータ角はプラスの値となり、南側の場合はマイナスの値となります。
衛星に対して真上に太陽が来た場合が90°(ベータ角最大)となり、軌道面上に太陽がある場合が0°(ベータ角最小)となります。
Source: Beta Angle
(参考)太陽同期軌道のベータ角
太陽同期軌道は、衛星軌道面と太陽が1年を通して同じになる軌道をいいます。つまりベータ角が一定となります。しかし実際には、軌道傾斜角(後述)や地球が楕円であることによる変動によってベータ角が多少変化します。
2. パラメータの説明
地球半径 [m]:R
地球の半径です。地球は楕円ですが、一般的に計算には6378km(=6,378,000m)が使われます。
軌道高度 [m]:h
ここでは地球の表面から衛星までの距離を示します。地球の中心からの距離ではないことに注意してください。つまり、地球中心から衛星までの距離は R+h となります。文献によっては中心からなのか表面からなのかが曖昧な説明になっていることで混乱するので注意してください。
万有引力定数 [m^3/kg/s^2]:G
重力相互作用の大きさを表す物理定数です。一般的には 6.67 \times 10^{-11} [m^3/kg/s^2] が使われます。
地球質量:M
地球の質量です。一般的には 5.972 \times 10^{24} [kg] が使われます。
太陽黄径(Right ascension of Sun) [deg]:Γ
このあたりから難しくなってきます。まず、太陽を中心にして公転している地球の軌道面を黄道面といいます。下図のように、地球からみると太陽の通り道のことです。太陽は1年を通して地球から見た位置が変わります。夏は太陽が高かったりしますね。ここで、春分の日を太陽黄経=0°として定義されていて、そこから地球の北側から見て反時計回りに測った太陽までの角度を太陽黄経(たいようこうけい)といいます。
Source: 黄道
昇交点赤経(Right Ascension of Ascending Node:RAAN) [deg]:Ω
これは初めて聞くとかなり難しいです。衛星が地球の赤道面を南から北に通過する地点を昇交点赤経といいます。逆に北から南に通過する地点を降交点赤経といいます。降交点赤経は昇交点赤経の180°逆側です。昇交点赤経も春分の日の太陽方向を0°として、地球の北から見て反時計回りに角度を算定します。
Source: 人工衛星の軌道要素
軌道傾斜角(Orbital inclination) [deg]:i
地球の赤道と衛星の軌道面との角度です。衛星が赤道上を周回する場合は軌道傾斜角=0°、衛星が北極から南極を周回する場合は軌道傾斜角=90°となります。昇交点赤経が角度原点になって、昇交点赤経から地球中心を見たときに反時計回りに角度を算定します。
Source: Orbital Elements
赤道傾斜角(Declination of Sun) [deg]:ε
太陽黄道面と地球赤道面との角度です。地球は公転に対して自転軸が23.45°傾いているため、この角度を赤道傾斜角といいます。黄道傾斜角ともいいます。単に傾斜角ということもありますが、会話の中で軌道傾斜角とごっちゃになることがあるので注意してください。
Source: 黄道
地球の扁平率摂動係数(Oblateness perturbation coefficient of earth):J2
地球は真円ではなく楕円であるため、その扁平率を示した係数が扁平率摂動係数です。値は一定で、0.00108262が使われます。
(参考)TLEの読み方
TLEとは、米国北アメリカ航空宇宙防衛司令部(North American Aerospace Defense Command)が公開している人工衛星を含む宇宙物体の軌道情報を2行形式で表したものです。Space-Track.com等から取得できます。
Source: Two Line Element (TLE) の説明
3. ベータ角の計算
ベータ角の公式
ベータ角は一般に以下の数式で算出できます。各記号はパラメータの説明を参照。エクセル等で計算する場合の角度は、明示しない限りはRadianとなること注意してください。
この時、軌道傾斜角(i)と赤道傾斜角(ε)は一定ですが、太陽黄経(Γ)と昇交点赤経(Ω)は時間の経過によって値が変化します。
- Γ:季節によって太陽の位置が変化
- Ω:地球が楕円形状であることで衛星軌道が変化する
太陽黄経(Γ)の変化値は、地球が1周公転するのに約365.24日かかることから以下の式で表されます。
昇交点赤経(Ω)の変化値は、以下の式で表されます。
昇交点赤経は、軌道傾斜角が90°以下の軌道に対しては北から見て時計回りに動き(変化値はマイナス値)、軌道傾斜角が90°より大きい軌道では反時計回り(変化値はプラス値)となります。時計回りの場合はΩの変化値がマイナスになるので、ベータ角の変化を計算する時に昇交点赤経がマイナスになる場合がありますが、昇交点赤経は0°~360°の範囲とならなければいけないことに注意してください。
上記の式で、pは以下の定義ですが、円軌道の場合は離心率(e)はゼロと仮定でき、かつ長軌道半径(a)は軌道半径(R+h)となるため、以下とみなせます。
4. ベータ角の計算例
ISS軌道
- 軌道高度:408km
- 軌道傾斜角:51.6°
- 太陽黄経初期値:0°
- 昇交点赤経初期値:0°
ISSは±75度の範囲内を変動する
太陽同期軌道
- 軌道高度:750km
- 軌道傾斜角:98.4°
- 太陽黄経初期値:0°
- 昇交点赤経初期値:0°
太陽同期軌道はベータ角の変動はそれほど大きくない